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佐伯瑛様へ
今年も、貴方宛にお手紙が書けるのかと思うととっても嬉しいです。
昨年の熱烈ラブレターから、もう1年が経ってしまいました。
早いものですね。
この1年間、ご存知の通り、私は何人か他の人を
相も変わらず「好き好き!」と言ってきましたが
どーしてだか、最後には、いつも貴方の元に戻ってしまいます。
貴方はどんな魔法を私にかけたのですか?
貴方のおかげで救われていることが、本当にたくさんあります。
貴方がいなかったらどうなっていただろう・・・って思うことが何回もあります。
きっと、ずっと私は、あなたを必要としてしまうんだろーなーって思う。
どうか、これからも私の支えとなって下さい。
すっと、私に、魔法をかけ続けて下さい。
どんな言葉で、この気持ちを表せるんだろう・・・って思うのだけど
最後は、いつもこの言葉に落ち付いてしまいます。
「ありがとう・・・。」
これからも、ずっと私の王子様でいて下さい。
「お誕生日、おめでとう!!佐伯瑛君!!」
追伸:今年はラブレターだけでは満足できず
とうとう妄想列車を走らせてしまいました。
本当に、ただの妄想列車なんです。
心の広ーい方のみ、お読みくださいませwww
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【瑛君とののの物語】
佐伯瑛誕生日企画:もうひとつのSTORY~20年目の奇跡~
2017年7月19日
ピピピーピピピーピピピー・・・
枕元で、無常な電子音が鳴り響いた。
ののは、寝ぼけながら、その電子音の主を探りあてて手に掴むと
恨めしそうに眺めてOFFにスイッチを切り替えた。
「はいはい、起きますよ。だから、もう少し、静かな音を出して・・・」
そういいながら、大きく伸びをひとつしてベットからゆっくりと起き出した。
「あーまた、朝がきちゃったんだね。」
ののは、身支度を整えるために洗面台に向かい、
歯を磨き、顔を洗い髪を軽くセットする。
鏡に映った、自分の顔を見つめた。
(でも・・・最近良くみるんだよな・・・あの夢。
どうしてなんだろう?
あんな約束、あの子が憶えてるわけないしなぁ。
でも、やけに鮮明に蘇ってくるんだよ・・・。)
あんな約束・・・
・
・
・
1997年7月19日
のの5歳の時の出来事だった。
ののたち家族は、両親の少し早い夏休みを利用して、
海の近くに住んでいる、親戚の家に遊びに来ていた。
海が綺麗なこの町には、海水浴目当てで毎年、夏には遊びに来ていた。
今年も、海での遊びを充分満喫したののは、もう、明日の朝、帰らなくてはいけない。
海が名残惜しくなったののは、もう一度、どうしてもあの海へ行きたかった。
「そうだ!お昼に泳ぎに行った時みつけたあの貝殻を拾ろいに行こう!」
急いで、両親の元に向かうと、息せき切って言った。
「ねぇ、ねぇ、お父さん、お母さん、私、さっき海に泳ぎに行った時見つけた
綺麗な貝殻があるんだけど、あれを拾ってきたいよ。
お友達のお土産にも、拾ってみたいし・・・いいよね?」
「そうね、夕飯まではまだ時間があるし。
もう明日には帰らないといけないから、最後に、海のお散歩のいいわね。」
母親の言葉に続いて父親も答えた。
「そうだな。夕暮れの海も中々良いかも知れないね。」
父親も母親もののの申し出を快く引き受けて、
のの達家族は、海岸を目指して歩いていた。
海岸に着いたののは、目の前に海が見え始めると一目散に駆け出して
砂浜に足を踏み入れると、早速お目当ての貝殻を探し始めた。
夢中で貝殻を探し続けていたののは、ふと気がつくと両親の姿が見えず
ひとりぼっちで海岸にたたずんでいた。
「え?お父さんとお母さんは?どこ?」
ののは、必死で両親の姿を探したが、どこにも見当たらず
とうとう、灯台のところまでやってきてしまった。
灯台の周りを一周すると、入り口らしき扉があった。
「あれ?ここは入れるのかしら・・・?」
ののは、心細さで一杯だったが、その扉を開けてみたいという好奇心が勝り
扉に手をかけて、中に入ってみた。
灯台の中は薄暗く、ひんやりとした空気がののを包みこんだ。
「あのー・・・誰かいませんか?」
「・・・」
声が反響して、くぐもった声としてののの耳に入ってきた。
(何だか、ちょっと気味が悪い・・・)
自分の足音が、いつになく大きな音をたてている。
暫く奥へと進んでいくと、壁に1枚の絵が掛かっていた。
ののは、何故だかわからないが、その絵に引き寄せられるように近づいて行った。
一歩一歩ゆっくり進んで、絵の前で立ち止まり、暫くその絵を眺めていた。
(これ、誰だろう?男の人がいるけど、何だか悲しそうだな・・・)
その絵を見入った後、さらに奥へと進んで行った。
すると、向こう側からこちら側にに差し込む一筋の光が見えた。
緋色の光が、薄暗さの中でひときわ鮮やかなオレンジ色を放ち
キラキラ眩しくて、凝視しているのが難しいくらいの神秘的な光だった。
(あれは、出口かしら?)
ののはゆっくりとその光が差し込むところに歩いて行った。
柔らかな緋色の光の中に入っていくと、何だか、暖かな空気を感じとても心地良かった。
さらに歩みをすすめると一瞬、眩しさで目の前が真っ暗になったかと思うと
目の前に、緋色よりもっと濃いオレンジ、茜色に染まった空と海が飛び込んできた。
「あ!?何?海?・・・」
ののは、ゆっくりと目と開いて、眼前に広がる景色に息を呑んだ。
「わーーー!すごく綺麗!」
水平線が解らないほど、空と海が茜色に染まって一体化している。
水面は同じく茜色に染まっている太陽の光が反射して宝石のようにキラキラ輝いている。
ののは、まるで御伽噺の世界に来たかのように思っていた。
「ここは、もしかしたら、絵本の世界なのかな?」
光が差し込んでいた出口から外に出てみると、バルコニーのようなところに出た。
綺麗で素敵な世界に魅了されたののは暫く海を見つめていた。
少しづつ沈んでいく太陽を見ながら、辺りが暗くなっていくのを感じたののに
今度は、言いようもない不安が襲ってきた。
「あっ、そうだ!私、お父さんとお母さんを探さなきゃ!」
そう思って、駆け出そうとしたが、どちらへ向かえばいいのかわからず
踏み込んだ左足をそのまま止めてしまった。
「ここは・・・どこ?どっちに行けばいいの?」
暫く、呆然と立ち尽くしていたが、思い出した不安な気持ちがどんどん大きくなり
ののは、その場にうずくまって泣き出してしまった。
「えっ、えっ、えっーん・・・お父さん、お母さん・・・怖いよ・・・」
すると、背後から誰かの足音が聞こえてきた。
その足音は、ののの丁度後ろで止まった。
「どうして泣いてるの?」
ののは、突然、背後から話し掛けられて、驚きのあまり声を出すことが出来なかった。
「・・・。」
「どうして黙ってるの?」
「・・・。」
「ねぇ、君は人魚なの?」
「人魚?」
ののはやっの思いで、答えた。
「ちゃんと口がきけるね。どうしたの?」
声の主はうずくまっているののの隣に来て、質問を続けた。
「お父さんもお母さんも見つからないの・・・」
そう答えながら、ののは恐る恐る、声の主の方を見てみた。
長めの髪がさらさらと潮風に吹かれ、日に焼けた端正な顔立ちの男の子が
ののの方を、心配そうにのぞき込んでいた。
(わぁ・・・かっこいい男の子・・・)
「そう、それは心細いね。
大丈夫、僕が一緒に探してあげるから、もう泣かないで。」
「うん。」
すると、その男の子はののに手を差し出した。
「さあ、おいで!」
ののは、差し出された手が何だか本当に助けてくれそうでためらい無く捕まった。
すると、男の子はののの手を引いて、出口に向かって
ののが来たルートを戻るようにして歩き出した。
すると、大きな絵がかかっている部屋にひとりの老人が立っていた。
老人は、壁にかかってる絵をじっと眺めていた。
「あっ、じいちゃん!」
「おや、瑛かい?また、ここにきていたんだね。」
「うん、そう!だってここ好きだもん!」
「そうか、そうか。
おや?瑛の後ろに隠れている可愛い女の子は・・・もしかして人魚姫かな?」
ののは、老人をみかけて思わず男の子の後ろに隠れてしまっていた。
「ち、違うよ、私・・・」
老人は、ののに優しく微笑みかけた。
「ああ。そうかい、それは残念だね。」
その笑顔から暖かさを感じ取ったののは警戒心がなくなり
さっき、疑問に思ったことを、口に出していた。
「ねぇ、おじいさん、この絵の男の人は誰なの?」
「この人かい?知りたいかい?」
「うん!」
ののが大きくうなずいた。
「そうか。じゃー話してあげよう。」
「えーまた、あの話?」
男の子が呆れたように言った。
「いいじゃないか。ワシはお前に話すんじゃなくて
この可愛い人魚姫のようなお嬢さんに話すんだから。」
「わかったよ。」
「じやー二人とも、こっちへおいで」
老人は、二人を絵の前に立たせた。
「昔、ここの海に住んでいた若者の話なんだがね・・・」
そして、可愛そうな若者と人魚の悲恋の話が始まった。
ののは、興味深く、その悲恋の話を聞いていた。
・
・
・
「そうして、この灯台に明かりを灯すようになったんだよ。」
老人の話がひと通り終わった。
「・・・」
ののは、子供ながらに、その悲しい悲恋の話を聞いて言葉失くしていた。
(何だか、とっても可哀そう・・・)
「そうだ、もうすぐ、夕日が沈む。
今が一番、綺麗な時だから、お前たち、もう一度海を見ておいで。
瑛、お前は、今日誕生日なんだからとびきり綺麗な夕日がでてることに感謝しておいで。」
「はい。」
「うん。」
ふたりは同時に返事をすると、男の子がまたののに手を差し出してきた。
「おいで、行こう!」
「うん!」
ののは、差し出された手をそっと掴んで海のほうへ歩いて行った。
外に出てみると、まさに大きな太陽が海から見える山の向こう側に沈もうとしていた。
「わーきれい・・・本当にきれいだね」
「だろー僕、ここの海、大好きなんだ!」
「私も大好き!」
ののは、沈んでいく太陽を見ながら、さっきからずっと気に掛かっていたことを口に出した。
「ねぇ、2人はまた逢えたんだよね?」
男の子は唐突な質問ながら、何のことなのかは直ぐに察しがついたようで、言葉を返した。
「それはわからないんだよ。」
「そんなの、かわいそう。」
「だって、そう言うお話なんだ。」
「・・・・」
しばらく、沈黙が続いた後、男の子は何か決心したようにこう続けた。
「でも、僕ならきっと見つけるよ。」
「本当?」
「うん。だから、顔を上げて?」
「?」
すると、男の子は、ののの可愛らしい唇にちょこんとキスをした。
「口づけだよ。この海で、また逢えるように。」
「・・・・」
ののは、何が起こったのかわからないまま、暫く、男の子を見つめていた。
そして、その後、何かを思い出したかのように
自分が肩から提げているポシェットの中をかさごそと探し出した。
そして、この前家族旅行で行ったTDLで買ってもらった20周年の記念の
ミッキーのキーホルダーを見つけて、手に取った。
そして、それを男の子に差し出した。
「ねぇ、これあげる!あなた今日誕生日なんだよね。」
「そうだけど。」
男の子は差し出された、キーホルダーを手に取った。
「これは、私からおまじない。」
「おまじない?」
「そう、あなたが私をみつけやすいように。」
「???」
「このキーホルダー見て。ここに20って書いてあるでしょ?」
「うん。」
「だから20年後の今日、ここに来るの!そうしたら、ちゃんと会えるよ。」
「・・・。」
「ここに来た私を見つけるのは、あなたの役目よ。」
「わかった。」
「フフフ・・・楽しみ。」
「そうだね。」
ふたりの髪を、心地よい潮風が揺らした。
「おーい!のの!いるのかー?」
灯台の入り口のほうから聞こえてきた聞き覚えのある声に、はっとして、
ののは声のするほうへ、駆けて行った。
「お父さん、私、ここにいるよ!」
「もう、ののったら、急にいなくなるから心配したのよ。」
「ごめんなさい、お母さん。」
「さぁ。もう日も暮れたから、早く帰ろう!」
「うん!」
ののは、男の子にさようならの挨拶をしようと、バルコニーに戻ったが
そこには、もう誰の姿もなかった。
・
・
・
鏡の前でののは、昔の記憶を思い返していたが、
こんなに悠長に物思いに更けっている時間が無いことを思い出した。
「あーーいけない!遅刻する!!」
慌てて、身支度をして、トーストをかじり、コーヒーを飲むと家を出た。
「いってきま~す!」
いつもの通りの朝が始まった。
ののは、高校卒業後、希望の大学に入り、一部上場の一流企業に就職して
女性社員としては頑張りどころの25歳になっていた。
特に、これをやりたい、これを目指しているという訳でもなく、
平々凡々な生活を送っていた。
仕事に関しても、当たり障り無く、何となくこなしている・・・そんなスタンスであった。
いつもの通りの通勤の満員電車に揺られながら会社に向かう。
目の前には、いつもの風景が流れている。
(はぁ・・・何だか、今日は会社行きたくないな。)
ののは、電車に揺られながらも、どうしても今朝から、あの夢が頭から離れてくれなくて
何度も何度も、同じシーンを頭に描いていた。
(だから、あんな約束、もう憶えてないって・・・)
体を反転させると、眼に映る風景が、外の風景から車内の風景に変化した。
視線の少し先の見覚えのある制服の女の子達に目が留まった。
耳をすますと、彼女たちの会話が聞こえてきた。
「ねぇねぇ、あの灯台の伝説知ってる?」
「そんなのあるの?」
「あそこに行くと、好きな人が迎えに来てくれるって!?」
「そんなの、ないない!」
「でも、何件か実績あるみたいだよ・・・」
そんな話が、耳に入ってきた。
(フフフ・・・そんな噂あったな・・・。
好きな人が迎えに来てくれるのか・・・一度経験したいな。)
目的地の駅のアナウンスが聞こえて、ののは流れに任せて電車から降りた。
改札口をでて、会社に向かおうと一歩を踏み出そうとすると、
足元にキーホルダーが落ちていた。
ののは、それを拾い上げてみてみた。
(あっ、これ・・・。)
それは20周年マークの入ったミニーちゃんのキーホルダーだった。
(フフフ・・・。私もこれ持ってたっけ?ミッキーだけど・・・。
それ、確か・・・あの子にあげたんだった。
・・・もう、あんな約束覚えてないだろうけどね。)
ののは、それを駅改札付近に設置してある「落し物入れ」に入れた。
(落とし主さん現れるといいね。)
そして、改札をもう一度入ると先ほど降りたホームとは反対側のホームへと歩き出した。
(でも・・・たまには、バカなこともやってみたいじゃない?
そんなのある訳ないけど・・・でもそれにかけてみたい気分。)
ののは、ホームに入ってきた電車に乗り、商店街へ向かった。
電車を降りて、改札口を出たところで、会社に電話を掛けた。
「お早うございます。柊です。実は・・・」
(よし、これで、心置きなくバカなことできるかな・・・)
ののは携帯を閉じて、商店街でウィンドウシッピングを始めた。
(えーと、何にしようかな?
あの子、今日誕生日なんだよね、確か。
あれぇ?あの子っていくつだったんだろ?
そんなに年は離れてないと思うんだけど・・・。
でも、もうあれから20年だし、どうなってるのかな?
意外とかっこいい子だったんだよね・・・。)
ののは、そんな事を、色々考えながら、
プレゼントになるようなものを探して数件をお店を見て回った。
3件目の雑貨屋さんに入ると、正面の棚に目に入ってきたものがあった。
ののはそれに近づき手に取った。
「これ、奇麗だな・・・」
ガラス細工の人魚の置物だった。
背後から差し込む光を浴びて、キラキラひかり、目にとまったのであった。
(よし、これに決めた!)
大切にレジに運んで、プレゼント用にラッピングしてもらった。
ののは、何だかわからないけど、とても楽しい気持ちになってきていた。
(うーん、後はどうしよう・・・?これだけじゃ、寂しいよね。)
そして次に足が向いたのは洋菓子店の「アナスタシア」
(もう開店してるかな?)
お店の前まで来て『営業中』の表示を見てほっとして、お店の中に入った。
「いらっしゃいませ!・・・あれ?のの?」
「こんにちは!はるひ!久しぶり!」
「なんやーのの、こんな時間にどーしたん?」
「うん、ちょっと今日は休暇なんだ。
商店街に買い物にきたから寄ってみた。」
「もう、ホント久しぶりで、うれしいわー。」
「フフフ・・・。」
はるひは、高校卒業後、お菓子の専門学校に行き、フランスへ留学。
今年の春、帰ってきて、このお店に就職してなんと、パテシエをやっている。
自分の夢を叶えてしまったのだ。
「そうや、あんたに連絡しようと思ってたんやけど
来月、ハリーのコンサートがあるんだけど、一緒にいかへん?
ハリー、あんたに会いたがってたし・・・」
「うん、いいよ!私も久し振りだし。」
実は、はるひとハリーは高校卒業後、暫くして付き合いだし、
もう直ぐゴールインというところまで来ている。
ハリーも自分の夢を実現させて、
今では、日本では、かなり知られているバンドになっていた。
コンサートのチケットを取るのが一苦労なくらいに。
「とこれで、あんたらはどーなってるん?」
「だから、井上君と私はそんなんじゃないから・・・」
「そんなんじゃないってゆうて、時々会っとるんやろ?」
「会ってるけど、ツアーでこっち方面に来た時とか
実家に戻って来た時とかについでに会ってるだけだよ。」
「ふ~ん、そんなふうには見えへんけどなぁ・・・」
井上は、現在、針谷と一緒にバンドを結成して第一線で活躍していた。
針谷に引けを取らないほどの人気者になっていた。
「井上君なら、私なんかより素敵な子みつけるよ。」
「いやいや、どー考えても、のの一筋やろ、高校時代から。
あんたもさ、そろそろ真剣に彼のこと考えたらなあかんよ。」
「うん、わかってるって。でもホント、井上君とはそういうのじゃないから。」
そう言いながらもののは、
(このまま行ったらきっと井上君と付き合って結婚するのかな~)
などと、ぼんやり考えるのであった。
「んで、あんた、何しに来たんやった?」
はるひの問いかけで、はっと我に返ると
「そうそう、私ケーキ買いにきたんだ。
えーと、すぐに持って帰れるホールケーキある?
出来れば、誕生日用で小さめのもの。」
「あれ?誰か誕生日なん?」
「ううん、ちょっとね。」
「何々?ちょっと怪しげやん!」
「そんなことないよ。」
「ふーん、言いたくないんか。
まぁええわ、これ以上の詮索はせーへんで。」
そう言うとはるひは店の奥に入っていった。
しばらくして、小さめのイチゴのショートケーキを持ってきた。
「今はこれしか用意できへんわ。
こんなことやったら予約入れてくれればよかったのに。」
ののは、見せられたケーキにとても満足していた。
「ううん、これで充分だよ!ありがと!」
「了解、ちょっと待っとって。ローソクどーする?」
「そうだな~適当につけといて。」
はるひは手際よく、ケーキを包装すると、ののに手渡した。
「じゃーな。また、近いうちに連絡するからな!」
「解った!はるひはお仕事頑張ってね!」
「うん、ほな、気いをつけて!」
ののは、お店を出て、今度は、例の灯台に向かって歩き出した。
(とりあえず、行ってみよう・・・)
海岸通沿いを暫く歩いていると、小高い丘の上に白い灯台が見えてきた。
(あそこだよね・・・何か、懐かしいな・・・)
ののは、立ち止まって、灯台を見上げた。
気温は高いのだけど、今日はからっと晴れているせいか
ののの頬を掠めて通り過ぎる潮風は心地よく感じる。
潮風が海の香りを運んできて、
それがまた一段と、心を海のようにゆったりとした感覚にさせていく。
(何だか、こんなにゆったりとした穏やかな気持ちになるの、久しぶりかも・・・
でもホント、こんなのもたまにはいいかも。さて、もう少し・・・)
ののは再び灯台を目指して歩き出した。
少し息が上がり、頬を紅潮させた頃、ののは灯台の扉の前に立っていた。
ののは灯台の扉の取ってに手を掛けて扉を開けた。
「キーキーキー・・・」
鈍い金属音と共に扉が開く。
ののは、ゆっくりと中に足を踏み入れた。
薄暗く、少しひんやりとした空気がののを包んだ。
一歩一歩ゆっくりと進んでいく。
そして見覚えのある絵画の前にやってきた。
(あっ・・・この絵。可愛そうな若者・・・)
ののは、その絵を見て、20年前に聞いた老人の話を懐かしく思い出していた。
(若者と人魚の悲しい恋の話・・・。
あの時は、よくわからなかったけど、今なら少しはわかるかな・・・)
暫く、その絵を眺めた後、ののはさらに奥へとすすみ向こう側から差し込む光を見つけた。
緋色の光が、薄暗さの中でひときわ鮮やかなオレンジ色を放ち
キラキラ眩しくて、凝視しているのが難しいくらいの神秘的な光だった。
(あの時と同じ・・・綺麗だな・・・)
その光のトンネルを抜けて、バルコニーがある海のほうへ抜けて出た。
茜色に染まった空と海が飛び込んできた。
(あの時もこうだったな・・・素敵な夕暮れ。)
ののは、眼前の壮大な景色に見とれてしまってそのまま身動きもせずに佇んでいた。
どれくらい経っただろう、突然背後から声がした。
「どうして泣いてるの?」
「えっ?」
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